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| 筆者:flowerさん |
| ベネチアングァラスの万年筆を眺めています。そう。あの一乗寺の雑貨屋さんで貴女と買った万年筆、です。僕のはオレンジで、貴女はブラウンの。鳥の型にデザインされた。万年筆。 |
| イラスト/福田さかえ |
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ベネチアングァラスの万年筆を眺めています。
そう。あの一乗寺の雑貨屋さんで貴女と買った万年筆、です。
僕のはオレンジで、貴女はブラウンの。鳥の型にデザインされた。万年筆。
ちょっとほの暗い雑貨屋さんのアセチレン灯に照らされた机の上。
ベルギーの兵隊の型したキャンドルが並んだ横の辺りに、さり気なく置かれてて。
隣には金属のクローバーのスタンプが置いてあって。
貴女は、最初、そのスタンプを嬉しそうに眺めてたんですよね。 |
持つところが赤で、先の辺りが銀色の。ちょっと気取ったデザインのスタンプ。
「ねぇ。見て」ってちょっとはしゃぎながら。それを手にとって。僕の方に向けて。
「ちゃんと四葉なんだよ。可愛いね」って嬉しそうに。
目の前の見えない壁に押すふりをしながら。ぽん。ぽん。て。
幼子がはじめて判子を手にしたときのような。そんな仕種で。
僕は貴女の隣で、はしゃぐ貴女の横顔を眺めてたんですよ。
こっち向かないかな、なんて思いながら。
ちょっとだけクローバーのスタンプにも嫉妬したりしながら。それで。
「ちょっとレトリバーに似てるね。横顔が」なんて。
嬉しそうな笑顔を浮かべる貴女に、意地悪そうにそんなことを云ってみたんですよ。
貴女の気をちょっとだけ惹こうと思って。そんなふうに。
「もう。失礼ね」
貴女はちょっと、ぷくぅっと頬を膨らませて。僕の方を軽く睨んで。「もう」って。
可愛く膨らんだ貴女の頬。僕はひとさし指でそんな頬を突ついたんですよね。
そうしたら。「もう」って。貴女は笑って。僕も笑って。 |
あれは冬のはじまり。そんなころ、でしたね。
貴女の首には厚手のマフラーが巻かれてて。ニット地の。白の。
そんなちょっとだけ冬支度した貴女の恰好が、僕はとても好きでした。
たぶんもう少し寒くなってたなら黒のショートダッフルのコートを着て、
膝ぐらいまでの編上げのブーツを履いてたりしてたんでしょうけど。
黒のプリーツのスカートに黒地に緑の格子縞が描かれたセーター。
そんな姿の貴女が僕は好きでした。理由はないのですけど。
「寒くなったね」なんて云う、ちょっとだけ冬支度の貴女がとても好きでした。
たぶん、暗いはずの冬がちょっとだけ華やぐような、
そんな気がするからなのでしょうね。きっと。 |
「ねぇねぇ。これ」
そんな貴女が嬉しそうに手にしたものが、このグァラスの万年筆だったんですよね。
「可愛いね。いいねぇ」って。僕が返すと。
「そう云えば。誕生日近いんだよね。じゃあ、これ。プレゼントするね」なんて。
「どれにする?」って。並んでたのは、青、赤、緑、オレンジ、ブラウン、でしたね。
それで僕がオレンジとブラウンで「どっちにしようかな?」なんてちょっと迷って。
結局、僕がオレンジで、貴女がブラウンで。
「たまに交換しようよ」なんてことになったんですよね。
それで、僕が貴女に。貴女が僕に。プレゼントするってことで。
そんな日から一年、ですね。長いような、短いような。
たまにこの万年筆を眺めると、貴女の顔が映るんですよ。
首には白いマフラーの。ちょっとだけ冬めいた、貴女の横顔が。
それで僕は、そんな貴女に「レトリバーに似てるね」なんて呟いてるんですよ。FIN
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